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2009.06.25 (Thu)

新連載 14  不気味なテビクァリ河

14
不気味なテビクァリ河




黄金の魚 ドラード



蒼く蒼く高い空、ゆったりと流れに任せる筏…。
深々とした静寂の中、時折、鋭い鳥の鳴き声が聞こえる。
大河の空気がウマイ。バシャッ!魚が岸辺で跳ねる。
「バクだね…」学船長。

ジジーッ!一気に糸が引き込まれる。
「来た!」ギヤを止め、ガッと竿を立て合わせる。
ググ~ッ、ずっしりとした重さが手もとに伝わる。
「でかい!」
「ドラードか?」
「この引きはピラニアかな?」右に左に暴れ回る。
糸を出す、手繰る、また糸を出す。
存分に目に見えぬ魚の手応えを楽しむ。やがて引きがやや弱まる。
そろそろ寄せる。また、ググ~ッと潜っていく。
結構、手強い。楽しみが募る。5、6分も格闘しただろうか?
キラリッ!銀鱗が光る。

「ピラニアですね」手網を水面に入れ、待機態勢の学船長が
おっとりとした声で判定を下す。
網にすくい筏に引き上げる。
「ク~ック~ッ!」40cmを超す黒っぽい大物ピラニアだ。
「頭を金づちで叩いたらいいですよ」ガッガッガッ3度叩くが
死なない。
ペンチで下顎を挟む。 ガリッとペンチを噛む。どう猛な鋭い歯だ。
下手に手を突っ込んだら簡単に食いちぎられる。
2度、3度力任せに叩く。やっと大人しくなった。
今さらながらピラニアのどう猛さに目を見張る。
フロリダ下流で不用意に飛び込んだ北原は冷や汗をかいた。
(こんなのがいなくて良かった…)。

ピラニアは流れの強い上流には生息しない。
こんなトロ(よどみ)っぽいゆったりした流れに多い。
ピラニアには、胸ビレから腹部が白、黄色、赤、黒の4種類がいる。
アマゾン辺りで最も恐れられている凶暴な奴が赤ピラニアだ。
白ピラニアは25cm程度、黄色が40cm, 赤が35cm,
黒は最も大きく50cm位だ。 数年前、アマゾンツアーに行った時、
注意されたのが、河や湖の中では、絶対に血を流さないこと、
水面でピチャピチャ音を立てないことなどだ。
概して河よりも湖に住むピラニアの方が凶暴だと言う。
ピラニアは流れの速い急流には生息しないが、
ドラード(黄金色の魚)は流れの速い所に大物がいる。
昨日、通過した岩礁地帯中央部辺りの流れは絶好の狙いめだろう。
ピラニアの大物を釣り上げた興奮から冷めやらぬ10分後、
再び期待に胸を弾ませて餌を放り込む。
間髪を置かず、ガツンと竿が一気に引き込まれる。

さっきのピラニアの引きとは全く異なる。
ズシンとした重厚な引きだ。重い。竿が弓なりにしなる。
「これはドラードですよ!」
学船長が自分の竿を置いて傍に来る。
重い、両手に全身の力を込めて竿を握りしめる。
糸がギュンギュン唸る。切れそうだ。
「ゆっくりゆっくり竿を立てて!」学船長。
「こいつはデカイぞ!」後ろから定やんと武やんも声を弾ませる。
竿を立てたものの糸を巻く事は出来そうにない。
竿を寝せる、立てる、5分も同じ手順を繰り返す。
やがて少しづつリールを巻くことが出来るようになった。
「大分、ドラードもくたびれてきましたね」
穏やかな声に戻った学船長。
「ここからの寄せが難かしいんだ」定やん。
慎重に慎重に寄せては緩め、寄せては緩めして少しづつ引き寄せる。
と、突然糸が緩んだ。一瞬、北原は慌ててリールをジジ~ッと巻いた。
バシャッと水しぶきとともに銀鱗が煌めいた。
1m近い黄金色の魚体が水面上に躍った。
「オ~ッ、ドラードだ!」4人が一斉に感歎の声を上げる。
ドラードのジャンプだ。
「ヤバイ!」誰かが叫ぶ。
北原は頭が真っ白になってリールを巻き続ける。
「切られましたね…」
「やられたね!」やっと北原も理解出来た。
大物ドラードは巨体を水面上に踊らせて糸を外したのだ。
(すごい!)ドラード釣りの醍醐味を初めて味わった北原は
動悸が暫く収まらなかった。
結局、その後、30cm程度のドラディーリョ(ドラードの子供)を
3匹、40cm程のピラニアを2匹、学船長も50cmを超える
ピラニアを3匹を釣った。
50cm以下のドラードは放してやらねばならない規則なので放流した。



オジンたちの酒盛り



左岸の土手に木で作られた素朴な十字架が作られている。
この辺で亡くなった人を偲んでの十字架だろう。
両岸の水面に累々たる無惨な樹木の屍骸…。
両岸の樹木が多くなってきた。
今は湖面のように静かな流れだが、大雨で増水した時の凄まじい河の
形相が想像される。
料理長定やんが早速、ピラニアを刺身にする。
「よし、俺がメシを炊いてやろう」
飯炊き武やんの誕生だ。
いつの間にか巨大な太陽も西の空にユラユラと沈み込んでいく。
やがて下流の樹木の影に隠れた陽は見た事もないような極彩色の
夕焼け空を演出する。 徐々に川面にもの憂い夕闇が漂いはじめる。
18時半、筏上に設置した発電機を回す。
ブーンという音とともに40ワット、
60ワットの電球が眩ゆいばかりに灯る。
虫が電球の回りを乱舞する中、男たちの夕食の酒盛りがはじまる。
酢味噌にタマネギ、ニンニクを混ぜ合わせたタレとワサビ醤油に
ピラニアの刺身をつけて食べる。
コリコリと淡白な身はタイに似て美味だ。
「うまいぜよ~!」料理長定やんもご機嫌だ。
メシのおかずは刺身に海苔、そしてセニョーラたちが
作ってくれていた白菜の漬け物だ。
「ハフハフッ…」
「ウメェ~ッ!」
「いい飯加減だよ」
「いくらでも食えるなぁ…」
相変わらず単細胞的な奇声を発して
4匹のオジンたちの酒盛りだ。

「ウオ~ン!」遠くで風が唸っているような音が
聞こえてくる。
「吠え猿だな…」闇が濃くなってくる。
筏の流れ具合が気になる学船長、早飯をかき込むと、
さっさとボートに乗り込み筏の方向をコントロールする。
昨夜より大分温かいようだ。
「おーっとヤバイゾ!」
「ぶつかるぞ!」ガガ~ッ!ガリガリッ!バリッ!
カーブでうまく曲がりきれなかった筏が岸から張り出している
樹木や倒木にぶつかり、日除けテント側面の支柱が折れる。
夜の航行はやはり感覚が狂うようだ。
しかし、ドラム缶の筏というのは丈夫なものだ。
枝や障害物にぶつかっても大して障害も受けず、
クル~リクル~リ反転してまた流れていく。

「誰か乗って下さ~い!」ボートに学船長一人では、
筏とボートをつないでいるロープのコントロールを
うまく操作出来ない。
こんな緊急時でもオットリとした声の学船長。
「よし、俺が乗ろう!」と武やんが乗り込む。
小1時間程度引っ張った後、北原が交代して乗り込む。
ボートでハンドルを操作する学船長の後部でロープを
右に左に移動させる。
改めて昨夜一晩中ボートで牽引した学船長とルーベンの苦労を
北原は思い知った。
「夜はムリをしない方がいいな…」
23時半、せり出している砂浜に筏を寄せて停泊。
12人がビッシリ難民状態だった最初の夜に比べると、
今夜はタップリとしたスペースでゆったりと休める。
ブーン!
(蚊がいるな…。アッ流れ星…、それにしてはデカイナァ~)
疲れていたのか北原はすぐ深い眠りに落ちた。

3月30日(日)、テビクァリ河のさわやかな朝が明けた。
5時半、ゴソゴソと起きて河の水で顔を洗い、歯を磨く…。
昨夜は暗くて気がつかなかったが、キャンプに最適の砂浜だ。
ドボンッ!(オッ、結構深いんだ…)
岸につないでいたロープを外すため河に飛び下りた北原は、
意外な気がした。
(昨夜はもっと浅かったのだが…) 砂浜に打ち込んだ碇を外す。
皆も起きて筏の上で忙しそうに立ち働いている。
6時出発ー。 いつのまにやらお湯も湧き、食卓代わりの
アイスボックスの上にマテ茶、ネスカフェにカップ、スプーン、
砂糖、パン、ビスケットも用意されている。
筏生活4日目ともなれば筏生活も板についてきてキビキビした
見事な役割分担だ。
大自然での生活を続けると身体機能が目覚めるのか、
今迄に感じたことのないような芳醇なコーヒーの強い香りが
鼻腔を刺激する。
4人、車座になりコーヒーにパンをかじる。
コーヒーが一際味わい深いしパンもうまい。
食事が終わるとマテ茶の回しのみが始まる。
マテ茶の強烈な苦みが頭をスッキリ目覚めさせる。
「ウーン、どの辺まで来たのかな~?」 早速、地図を広げてみる。
所詮、気休めとは分かっているものの皆一様に地図を覗き見る。
「それにしても流れが緩いよな~」
「下手すると10日位かかるんじゃないの…」
空は青く青く澄み渡り爽やかな朝の空気の中、
筏はユッタリユッタリ流れる。
絶望的な遅い流れだ。それに昨夜の岸辺樹木への激突…。
また両岸に残る累々たる樹木の屍骸。
大雨が降った時のテビクァリ河の暴れ河の様相が何となく想像される。
筏上の会議にも何となく厭戦気分に似たけだるい空気が流れる。
「この辺は湿地帯みたいだけど、マラリヤとか心配ないのかな~?」
さり気なく北原が聞く。
「マラリヤが出たなんてのは聞いたことがないね」と定やん。
北原は昨夜、寝袋にくるまって寝ていたのにガタガタ身体の
震えが止まらなかったことがマラリヤの徴候ではないかと
疑いを持った。
毎晩、岸辺に停泊するため蚊が襲って来る。
一応、蚊帳を吊ってその中に寝るのだが、
紛れ込んだ数匹の蚊が耳元でうるさい。

マラリヤといえば、戦前、アマゾンのアカラ植民地が
マラリヤと黒水病(死亡率80%)で、「生き地獄植民地」とか
「マラリヤ植民地」などと恐れられた史実「アマゾンの歌」
(角田房子著)などの生々しい事例が思い出され、
余計、疑心暗鬼の不安が募る。 昨夜の岸辺樹木への激突、
累々たる樹木の屍骸なども大雨による濁流を想像させ、
北原の不安を増幅させちょっぴり弱気にしていた。

「これから下流一帯の情報はゼロ、真っ暗闇のジャングルに
素手で迷いこむようなものだな~」
「この流れ具合だと下手したら10日以上かかりそうだな~」
頭をガシガシかきむしりつつ
「そこで提案だけど、ここから昨日のバランキナに引き返して
そこでこの旅を終えるってのはどうかね~?」と
北原は皆の腹具合を探る。
一瞬、「…ん?」と空気が固まったような雰囲気が流れたが、
すぐに強い反発は出なかった。
多少、皆にも多少逡巡する思いはあったのだろう。
侃々諤々議論百出したが、最後は「断固続行!」との
結論に落ち着いた。
続行と決まれば、北原の覚悟も定まった。
学船長の補助役として武やんがボートに乗り込む。
岸辺にパクという魚の好きな黄色い実が沢山なっている。
この実の名前を定やんに聞いたら
「パクッと食べるからパクて言う名前がついたんだそうだ」
まじめな顔で定やん。
「冗談だろう?」吹き出した北原に
「いや、本当だって!」口を尖らせてまじめな顔の定やん。

「北原さんに謝らないかんな~」改まった顔で定やん。
「…ん?」
「いや、北原さんが最初、新聞社を始めるためピラポ迄挨拶に
来た時、新聞なんて儲からんことはやめときや~って言ったことよ。
つまらんことを言うたな~とつくづく後悔しとったのよ」
確かにあの時、大きなスーパーの前に椅子を出してふんぞり返って
高飛車に放言したのは、この定やんだった。
こわもて一辺倒の定やんの繊細な一面をみたようで
北原には意外だった。

ボートの二人が岸に寄せてピンポン玉大のパクリを数個取った。
後でその実でパクを釣ろうというわけだ。
パクの皮をむくと柔らかいツルリとした中の実が美味しそうだ。
舐めてみるとほのかに甘く芳醇な香りがする。食べてみる。
食べて食べられない事はないがあまり進んで
食べるほどのものではない。

午前9時を過ぎると早くも強烈な太陽がカーッと照りつける。
やはり、日除けテントは必要だ。 昨夜の衝突で壊れた支柱を修理して
テントを張る。 風が出てきた。
U字状のカーブを曲がる毎に追い風になったり、
向かい風になったりする。
日除けテントがヨットの帆のように風をはらみ岸辺に吹き寄せられる。
結局、ずーっと、ボートで筏を引っ張らざるを得ない。
相変わらず両岸に樹木の残骸がゴロゴロしている。
時々、河の真ん中辺りでもにょっきり恐竜の骨のような白い樹木の
残骸が現れる。 油断出来ないのは水面下に隠れている樹木の残骸だ。
ボートの二人も気が抜けない。筏の乗員もカーブで岸辺に
近付き過ぎると竹ざおで川底を突いてぶつからないように
コントロールしなければならないので結構忙しい。
やがてカーブの連続を抜けてまっすぐな流れに出た。

12時、昼食は一昨日のカレーの残りがアイスボックスにいれて
あったのと昨日のアサードだ。
ボートの二人も筏に戻ってングングモグモグ食べる。

「しかし、考えてみると昔のスペイン等の探検隊ってーのは
エライね。何か月か何年かかるか分からん大海原に
乗り出したんだからね~」
「肉食人種のバイタリティーってのはスゴイね。
米の飯にお新香ポリポリと違うわな…」

因に世界一周を果たしたマゼラン艦隊は、5艘の船に大砲、
小砲等武器弾薬と265名の乗員を乗せて1519年8月10日、
セヴィリヤの港を出発している。 何年かかる分からない航海だけに
食料だけはたっぷり2年分積んでいる。 主食はビスケット
(21380ポンド)、小麦粉、円豆、扁豆、米等の他に
5700ポンドのベーコン、200樽のイワシ、980個のチーズ、
450束のタマネギ、蜜、干しぶどう、はたんきょうといった乾燥果物。
それと面白いのは、生きた牛を7頭積んでいる。
これはミルクを飲んで後は食肉用だ。そして葡萄酒を一杯。
原住民たちへの土産として一番喜ばれる鏡(900個)、鈴(2万個)、
400ダースの小刀、50ダースの鋏。その他に色つきハンカチ、
赤い帽子、ビロードの小布、メッキの腕輪、色ガラスをちりばめた
箱等も加えた。
名目上は、一応、貿易を掲げているが、当時のヨーロッパの探検隊の
やることは武力による占領、そして植民地化だ。
思えばヨーロッパ人たちが発見したとされる、
新大陸(彼等のごう慢な考え方)での何千万人という民族大虐殺ほど
凄まじい悲劇はないだろう。

本多勝一は「マゼランが来た」の中でこう書いている。
「新大陸の全土に生きついでいた何千万ともしれぬ先住民や
マリアナ諸島の何万もの先住民の目で見る時、ヨーロッパ人という
『大野蛮人』は、民族滅亡を招く『悪魔』以外の何者でもなかった。
(略) 『マゼラン』とは、何であったか、右の事実に疑いのない以上、
マゼランに『来られた側』からみれば、事実として民族(人間)絶滅の
尖兵たる『悪魔』の使者であった」。
また、同氏は別著でこうも言い切っている。
「彼等のいう『発見』によって幕が開かれた近代から現代への
人類史とは何であったのか。アメリカ先住民(インディオ)の大虐殺と
奴隷化、アフリカからの途方もない数の奴隷輸入。産業革命から
核時代の現代に至る『現代社会』のすべては、ここに出発点があった。
従って原発や環境破壊、そして何よりも『人間破壊』を象徴する
現代の矛盾は、ここに根源(ルーツ)を求めることもできよう」
(「貧困なる精神・C集」中のインディアス群書の紹介文から)


 北原は、数年前、あの知の巨人・花畑隆とエンカルナシオンで
偶然会った時の事を思い出した。
「インディオ部落を案内してくれたカトリックの神父が
『彼等は動物以下だ』と吐き捨てるように話していたが、
日本人が彼等(インディオ)と最初に遭遇していたら、
彼等の今日も随分変わったでしょうね」と、
幾分悔しそうに話していた花畑。
花畑は、カンヌ映画祭でグランプリをとった
英国映画「ミッション」の日本公開前、その前宣伝を書くために
舞台となったパラグアイのトリニダ遺跡取材に大阪のカメラマンと
一緒に来パしていたものだった。
トリニダ遺跡で北原家族と偶然会い、エンカルナシオンのホテルの
レストランで四方山話をした時にしみじみと述懐したのだった。

大昔、同じ蒙古斑のあるモンゴロイドたちがベーリング海峡を超えて
アメリカ大陸に渡って来た。 南へ南へ南下してきた一団は、
アルゼンチン最南端のフエゴ島(火の島)に到達し、貝や魚、
アザラシなど海産物を主食にし、カヌーを自在に乗り回していた
海洋民族のヤーガン族たちも既に絶滅した…。
ほんの数十年前、百年前まで彼等大野蛮人たちは、
野獣狩りをする如く、喜々として先住民たちを殺戮していた。

ジャーナリスト出身の在アルゼンチン大使だった故・津田正夫は、
1961年、フェゴ島を旅し、その旅行記「火の国・パタゴニア」
の中で「私はこの旅行中、現存している人たちから幾度か
その経験談、手柄話を聞かされて怒りを覚え、
とくとくと語る人々の顔に唾を吐きかけてやりたくなったことも
一再ではない」と記している。



まさにやられっ放しのモンゴロイドたち…




インドやアメリカを放浪し、
間借していた経堂のまぁまぁばぁちゃん宅の地下に自分で
地下室を掘り、瞑想に耽ったりしていたヘンな友人森田は、
「先の太平洋戦争で東西は激突したが、東のチャンピオンたる
日本は敗北した。
世界が真の意味で融合進化するためには、もう一度激突し、
西洋文明を破壊しなければ、人類の発展はない…」と、
以前、オソロシイことを語っていた。
これは、かっての昭和陸軍が生んだ天才的戦略家で
法華経行者でもあった石原莞爾(かんじ)の
「最終戦争論・戦争史大観」に通じる。
満州建国の立役者である石原は、当時、政財界、軍人等に
大きな影響力を持っていた田中智学の日蓮教団「国柱会」に
帰依を深めた。
そして日蓮の撰時鈔(せんじしょう)の
『前代未聞の大闘諍一えん浮提(だいとうじょういちえんぶだい)
に起るべし』にインスピレーションを受け、
「日蓮上人によって示された世界統一のための大戦争は
必至であるとした。
彼の満州建国は、日、韓、満、鮮、蒙の5民族を結集し、
そこからアジア諸民族の一大連合体、いわゆる「東亜連盟」を築き、
白色民族との最終戦争に備えようとした。
これはユダヤ教、キリスト教の終末史観の東洋版だ。
石原の最終戦争論もマルクスの共産革命史観やヒットラーの
人種淘汰史観等と同じ世俗的終末論とも言えるが、
東洋人の反撃史観としては一面の真理を言い得て妙である。

しかしながら、今日のへなちょこ日本には東洋文明の代表たる
資格も矜持(きょうじ)もない。
アメリカは戦後、日本的なるものの精神的破壊を目論み、
それは完全に成功したやに見える。
アメリカのニッポン州となった今の日本国内で
日本精神ルネッサンスを図ろうとしても恐らくムリだろう、
と北原は考えている。



油断禁物 嫌な予感…



午後2時半、カーブもよりゆるやかになり、
筏も河の中央の流れに乗った。
丸々した日焼け顔に無精髭の学船長が、眩しそうな目をして
ボートを筏につなぎ、上がって来る。
「ここまで燃料を80リットル使いましたよ」
「ーで、残りどの位あるの?」
「100リットル残っていますね」
「…とすると、厳しいね」
皆、一様に顔をしかめる。

学船長、筏後部で水浴びをする。
「グッグッグッ!」 右岸からガマガエルのような鳴き声がする。
「カルピンチョですよ」
日除けテントの下、影を求めて椅子を抱えてウロウロする
定やんと武やん。
この二人、あまり釣りは好きではないようで、
専ら北原と学船長が漁労長の役目を引受ける。
トロイ流れの中、どじょうの餌で、ドラードを狙って竿を出すが、
いずれも40cm大のピラニアばかりが6匹。
夕方、6時半、
「カレーでいいかな?」
「いいよいいよ」とどぎついばかりの夕焼けを観ながらの夕食…。
「オートッ、このカーブはきついよ!」流れが緩いとは言え、
油断は出来ない。
学船長、押っ取り刀でボートに乗り込み岸辺激突は危うくセーフ。
「途中、砂浜があったら早めに停泊しようよ」
ボートと筏から前方に懐中電灯を照らす。
半月になった月光は、弱々しく、大型懐中電灯で
前方を凝視しても実に見辛い。
前方に浮かび上がってくるこんもりした黒っぽい木々が島に
見えたりする。
また、カーブでの流れが左右どちらに流れ込むのか判断に苦しむ。
8時半、左岸に白っぽい砂浜発見。
「もっとエンジンを全開して引っ張らんと通り過ぎるぞ!」
何とか浅瀬に着いた。ロープを持ってザブン! ザブザブッと上陸。
ガッガッガッと特製手作りの杭を砂浜に打ち込んでロープを縛る。
「大型の蚊帳を持ってきたので張りましょうや」と学船長。
大型の蚊帳と言っても4人全員がすっぽりと蚊帳の中で
寝られるだけの広さはなし。
「頭だけ突っ込んで寝たらいいよ」
二人づつ逆さハの字に頭だけを蚊帳に突っ込んで寝る。
「ウーン、こりゃいいや。今夜は蚊に悩まされずに眠れそうだな…」
ザブンッ!浅瀬で魚が跳ねる音。

3月31日(月)朝…。
「水が増えていますよ。降りられないや…」と学船長。
「エ~ッ、そんなバカな?」
杭につないだロープが伸びているわけでもないのだが…。
確かに夕べは膝迄しかなかった水位が何故か深い…。
試しに筏用に作った特製櫓を差し込んでみた。
背丈ほど深い。 北原は嫌な予感がした。
(昨日も水位が変わっていた)
「バカな…?」
空にはどす黒い雲が低くたれ込めている。
風がひんやり冷たい。
もう近くで雨が降っているのだろう。
「これは荒れるぜよ!」定やんが顔をしかめて空を睨む。
「これは気をつけた方がいいよ」
武やんも眼鏡をふきふきボソリつぶやく。
「どうしますかね?」
学船長が、出発するか、それともここで待機するか、
皆に確認を求める。
「う~ん、ここも何となく頼りない場所だし…」
筏を繋留するのに頼りになる丈夫な樹木が岸辺にない。
大雨になった場合のこの河の増水具合が不明なのが
不安を増幅させる。
「出発してもう少し安全な場所を探そうよ」
北原もこの砂浜の安全性に疑問をもっていた。
「じゃぁ、一刻も早く行こう!」
学船長がつないでいたボートのエンジンをかけ、
浅瀬に乗り付け上陸して杭のロープを解く。

5時半、薄明の中の慌ただしい出発。
筏生活5日目ともなると
役割分担も絶妙だ。 確かに河の水が昨日より茶褐色に濁っている。
流れも若干、速いようだ。
風が吹いてきた。低くたれ込めた黒雲がダイナミックに移動する。
さすがに今朝はパンにコーヒーという優雅な朝食は出来ず固パンを
缶ジュースで流し込む。
河の真ん中に白い恐竜のような樹木が2本、
3本ニュ~っと水面上に突き出ているのに出くわす。
これを避けるのが意外と難かしい。
筏の図体が大きいので小回りが効かない。
ボートの補助員は定やんが乗っている。
武やんと北原は筏の前後左右に立って櫓と竹ざおで
岸辺への激突を避ける。
川面が波立ってきた。
雨混じりの風が顔面を横殴りに吹き付ける。
テビクアリ河がそろそろその正体を現してきた。

「ヤバイぞ!」
「早くどこか安全な場所に着けないと!」
大きく流れが左にカーブする箇所が見えてきた。
ボートで外側に大きく迂回しようと誘導するのだが、
左岸に磁石かなにかの力が働くのか、引き寄せられる。
ガリガリッ!
岸から張り出した樹木に筏後部の仮設トイレがぶつかる。
必死になって竹ざおで岸辺を押す。
いつもはおっとりと背もたれ椅子でタバコを
のんびりふかしている武やんも横殴りの雨の中、顔を真っ赤にして
櫓で岸辺を押す。
ボートは何とか外側へ引っ張ろうとするのだが、
ガリガリガリッと樹木との戦いから抜けられない。
「オッ、危ない!」1本の太い幹が横にはみ出している。
二人とも同時にうつ伏せになる。
バリバリバリッ!ドスン!仮設トイレが壊れる。
磁石の力が弱くなったのか、スッとUカーブ突端から
離れる事が出来た。
黒雲の流れが速い。一段と風雨は激しくなる。
顔面を叩き付ける雨粒が大きく痛い。

「砂浜が見えたぞ~っ!」ボートの定やんが大声で叫ぶ。
「よっしゃ~っ、そこに着けよう!」
満身創痍のドン・ペドロ号、ギシギシッときしむ。
心なしか流れが少し速くなったようだ。水かさも上がってきた。
右岸に見えてきたその砂浜は結構幅広く緩やかなスロープを見せて
土手に続いている。ボートが必死に牽引する。
ガガッ!筏のドラム缶が浅瀬の砂地をこする。
ザブン!北原はロープを持って飛び込んだ。腰迄の水位だ。
泳ぐようにして砂浜に上がり柳のような
木の幹にロープをくくりつける。
定やんも上がってきてロープを近くの木に結びボートを固定する。
学船長も上陸しボートと筏を更に強固に固定する。
雨はいよいよ凶暴に降ってきた。
「この様子だと水かさも増えて来そうだし、
上の方に避難しましょう!」
ざんばら髪になった学船長が珍しく断固とした口調でいう。
「下手したら筏は流されるかもしれんぜよ!」定やん。
図体が大きいだけに流れの抵抗も一際大きく受ける。
とりあえず最低限必要なものだけでも岸に運び上げることにした。
幸い筏と砂浜の間は何とか流されずに行き来出来る。
食料の入ったアイスボックス、ミネラルウォーター、テント、
それぞれのバッグなどを手分けして砂浜に上げた。
砂浜に上がって見ると水位がジリジリと上昇してくるのが分かる。
荷物をさらに安全な上の方に上げてテントを被せる。
「ボートだけでももっと安全な場所に移した方がいいですね」と
叩き付ける風雨の中、学船長がボートに飛び乗り移動をはじめる。
北原たちは手ごろな木陰にテントを張りそこに待避する。
やがて学船長が戻って来た。
「ちょっと下流に小さな入り江があったのでそこに
繋留してきました。多分、大丈夫でしょう」
テントの影からドン・ペドロ号を見るともろに流れを冠って
ユラユラ上下左右に揺れている。
                            (続く)





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